太陽の下ビーチタオルに寝そべり手足を伸ばせば心からリラックスできると思っても、太陽光は皮膚にはとっては有害で、文字通り「赤」信号となっています。日焼けは単に不快なだけでなく、老化の進行から皮膚癌まで、現在ではその危険性がよく知られています。ありがたいことに、SPF値(日焼け止め指標)が示すように、日焼け止めは太陽の紫外線の危険から皮膚とあなた自身を守ります。しかしながら、実際のところこの数値は何を意味していて、どのように測定するのでしょうか。そもそも日焼け止めは本当に表示されているとおりの効果があるのでしょうか?
このアプリケーションノートでは、分光分析を用いてこれらの重要な疑問にお答えします。
人間の目は、赤色側(長波長)では約780nmから虹色の変化を経て、紫色側(短波長)の約380nmの範囲に敏感に反応します。それより短い波長の太陽光は、紫の「外」と考えられたため「紫外(Ultraviolet)」、つまりUVと呼ばれています。紫外光は、約320nmまでのUVA域と、エネルギーレベルが高く危険性も高いUVB光(320nm~280nm)、それよりもさらにエネルギーが高い短波長側のUVC域に分けられます。UVCはオゾン層で完全に吸収されますが、UVB光は図1で示されるように、地表に到達しています。
図1: 地表における太陽光のスペクトル、日焼けに対する皮膚の敏感さ、2種類の製品、日焼けの危険度と、波長の相関性
太陽への暴露に対する耐性は、皮膚のタイプによって大幅に異なります。色白、赤毛で青い目の人の場合はほんの5分程度が限界かもしれませんし、暗い色の皮膚と髪の人の場合はそれよりかなり長いかもしれません。日焼け止めを塗布することで、紫外線防御指数(SPF = Sun Protection Factor)に応じて最大暴露時間を延長することが可能です。例えば、典型的な北部ヨーロッパ出身の白人である筆者の場合、SPF20の日焼け止めを用いるとビーチで過ごす時間を20分から100分にまで延長できます。皮膚のタイプや使用するSPFに関わらず、皮膚科医は2時間おきに日焼け止めを塗り直すことを推奨しています。
これまでは、SPFは以下のような方法で測定されていました。ボランティアの背中に光量を徐々に上げながらUV光を照射します。何カ所かには日焼け止めを塗布し、何カ所かは比較のために何も塗布しません。日焼け止めを塗った部分と塗らない部分が赤くなり始めるまでの時間の比率が、テストしている日焼け止めのSPF値になります。この手法は苦痛であるだけではなく、正確さにも欠けています。それだけではなく、UV光の危険性が常識となった今ではボランティアを集めるのも一苦労です。
SPF値の測定に関しても、分光分析はこの課題に対するよりよい解決策となります。日焼け止めは皮膚に到達する前にUV光を吸収、または反射することで効力を発揮します。高いSPF値の日焼け止めに使用されている二酸化チタンなどの白い粒子は、反射タイプです。ベンゾフェノンのようなその他の材質の多くは、UV光の一部を吸収します。SPF値の測定において必要な情報は、透過して皮膚に到達するUV光の割合です。
SPF値を分光分析で測定する際に、サンプル準備には3つの異なるアプローチが考えられます。溶解法では、日焼け止めの有効成分を適切な溶媒に溶解し、溶液の上澄みを標準的な吸収測定構成でキュベットを用いて吸収測定を行います。ただし、本手法では、固体粒子が測定されないことが多々あります。この他の手法として、浅いくぼみがある透明のホルダに、均一な薄膜状に日焼け止めを塗布する方法が考えられます。この手法では、全ての含有物を含めたままフィルムの透過を測定することが出来ます。しかしながら、実用的には、この構成で薄膜の均一性を保つのは困難だと分りました。
考えられる第3の手法は、日焼け止めを3M Transporeのような医療用テープに塗布し、顕微鏡スライドに貼るというものです。変わった方法のように思えるかもしれませんが、医療用テープに等間隔に開けられた微小孔により、日焼け止めをサンプルホルダに均一に塗布でき、しかも再現可能です。さらなるメリットとして、医療用テープで日焼け止めを塗布すると、1cm2あたりの使用量は通常1~2mgになります。これは皮膚科医が皮膚を守る為に推奨する使用量とほぼ同じです。
医療テープに塗布された薄いレイヤーは入射してくるUV光を散乱させるので、シンプルなレンズ-ファイバコレクタでは、透過してくる光を全て集めることはできません。図2に示すように、サンプルの背後に設置した積分球で透過し散乱した光全てをとらえる方がよいでしょう。
サンプルホルダを準備し、番号をつけ、重量を測定しました(後で塗布した日焼け止めの量を確定するため)。ブランクのサンプルホルダでの透過光は、日焼け止めを塗らず、医療用テープだけを貼り番号を書いた、単体の顕微鏡スライドをリファレンスとして用いて測定しました。
日焼け止めの薄い膜をサンプルホルダに塗布して顕微鏡スライド上に薄い層を作り、サンプルスライドの重量を再度測定してから60分間放置して乾燥させました。このように乾燥させた後、拡散リファレンススライドによる透過を、時間経過と共に変化するランプ出力100%リファレンスとして再度設定しました。最後に、日焼け止めを塗布した実際のサンプルを通した透過光を測定しました。一つのサンプルについて、ダーク測定を含め計8種類のスペクトルを記録し、分光器、サンプルホルダ、UV光源出力の差異を平均化します。図3では、該当UV域で取得し平均化した透過スペクトルを表示します。
[左]図2: 医療用テープとスライド(中央)から成るサンプルホルダに塗布した日焼け止めを透過するUV光を測定する構成。重水素光源(DH-2000-BAL)からのUV光が左側のファイバから入射し、積分球(左)が散乱光をとらえる。ACH-CUV-VARレンズホルダを用いて、入力レンズ、サンプルホルダ、積分球をマウントする。背後に見えるのが測定に用いたサンプルの日焼け止め、医療用テープ、及びFlame-S-UV-VIS-ES分光器。図3の透過スペクトルは、入射UV光の何%が皮膚に到達するかを示しています。しかしながらUV域全てが均一であるわけではありません。図1の赤いラインのスペクトルで示されるように、波長の部分によって皮膚に対する日焼けの感受性が異なるため、ある波長は他よりも危険性が高くなります。例えば、300から320nmの照射は、地表に到達する太陽光線の中で最も危険なので、日焼け止め製品が吸収するUV光は圧倒的にこの領域の光です。
SPF値は、日焼け止めを塗布しない場合の日焼けの危険性(図1の赤線のスペクトルを超えた積によって測定する)と日焼け止めによって軽減された日焼け止めの危険性(図1)を比較した割合になっています。この計算の結果は表1のとおりです。
サンプル ID | ブランド | 備考 | 表示SPF値 | 測定SPF値 |
---|---|---|---|---|
2 | A | 標準 | 20 | 79 |
3 | A | 標準 | 30 | 99 |
4 | A | 標準 | 50 | 193 |
5 | A | ベビー用 | 50 | 48 |
6 | B | 固め | 45 | 32 |
7 | C | プライベートブランド品 | 30 | 35 |
今回の実験でテストした日焼け止めは全般的に、表示されたSPF値どおりの太陽光に対する皮膚の保護効果が見られました。おもしろいことに、A社製品のスタンダードな日焼け止めのSPF値は表示より3~4倍高い値ですが、同じメーカーのベビー用日焼け止めはほぼ表示通りのSPF値です。また、サンプル6の結果から分るように、当然ではありますが、均一に塗布できるかどうかが日焼け防止の効果に大きな影響があります。
同じ測定構成を用い、布地や他の材質についてSPF値を測定することも出来ます。この手法は再現可能で、安定しており、健康や安全に関する問題に対処する、幅広いサンプルを測定するためにモジュール式分光システムの効果性が発揮されます。